written by @raq_reezy

こんにちは。

秘密基地のように自分の好きに使えるサイト「RAQ ZAKKA」を作ってみたわけですが、まずは「Lyrics(リリックス)」という不定期更新のエッセイ・シリーズを始めてみたいと思います。

どんなシリーズかというと、僕が魅力的だと思うリリックについて、好き勝手に語る。それだけ。すぐに終わるかもしれないし、案外続くかもしれない。もしも続いたら、そのうち本にでも出来たらいいなと思います。

さて、記念すべき初回はこちらのリリック。

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You never told me being rich was so lonely
Nobody know me, oh well
Hard to complain from this five-star hotel

意訳:
お金持ちになるのが、こんなに寂しいなんて誰も教えてくれなかった

誰も本当の俺を知らない
まあでも、この5つ星のホテルから文句をいうのは難しいよな

Mac Miller – “Small Worlds”

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このリリックの魅力について、言葉にするのはなんとも難しい。

どこから手をつけたらいいのか悩んでしまうし、魅力の伝え方を間違いたくないという気持ちから、ずっとリリックとの睨めっこが続きそうな気がする。

そんなわけで、少しやり方を変えて、このリリックと僕の出会いから振り返ってみたいと思う。

この曲「Small Worlds」は、「Buttons」や「Programs」と一緒にシングル曲として突如リリースされた。もしくは、しっかりと告知されていたのかもしれないけれど、少なくとも僕にとっては突如のリリースだった。うろ覚えの記憶を辿ると、たしか自宅に帰る電車の中でツイッターを見ていて、たまたまリリースされたことに気付いたという感じだった気がする。

もうお分かりのように、この曲との出会いはそんなふうに今となっては記憶が曖昧になっている程度のもので、決して衝撃的と呼べるものではなかった。

同時にリリースされた3曲の中では「Small Worlds」が一番ハマった。だから、リリース後はしばらくこの曲を聴いていたと思う。ちなみに、どうでも良いけれど、このとき初めてマック・ミラーの公式サイトをみて、メールアドレスの登録があることを知って、メールアドレスを登録した。だから、今でもリリースがあるとメールが届く。

さて、それからしばらくして、マック・ミラーの生前最後となるアルバム『Swimming』がリリースされた(僕と同世代の彼は、「27クラブに所属しないことを願ってるよ」と歌っていたが、27歳を迎えることなく、26歳のときに薬物のオーバードーズで亡くなった)。そして、そのアルバムにも「Small Worlds」は収録されていた。

同時にリリースされた他の2曲はいずれも収録されていなかったので、僕が3曲の中で「Small Worlds」にハマったように、多くのファンが(あるいはマック・ミラー本人も)「Small Worlds」にハマったのではないだろうか。

音楽は不思議なもので、良し悪しを数値化するのは難しいけれど、どの曲が良いかはみんなふんわりと分かる。「どの曲が素晴らしいか」と頭で考えると間違えるのだけれど。

いずれにせよ、『Swimming』も僕のお気に入りのアルバムになったので、その中に収録されている「Small Worlds」も必然的にしばらく再び聴くことになった。

そんな感じで、衝撃的な出会いではなかったけれど、「Small Worlds」は長距離マラソンで気付けば上位に躍り出ている選手のように、気付けば、僕のお気に入り曲の中でも、大のお気に入りになっていた。

そして、そんなふうに「Small Worlds」が気付けば大のお気に入りになっていたのとまるで相似形の図形のように、今回のリリックも、気づけば、大のお気に入りになっていた。

というのも、このリリックの魅力を初めて意識したのがいつどこだったかというと、これまた明確な記憶がない。目黒駅に向かって坂道をのぼっている途中、バンコク・オリエンタルというタイ料理のレストランを通り過ぎるあたりだった気もするし、部屋の中でBluetoothのスピーカーから流しているときだった気もする。

とにかく、多くの曲がマラソンをしている中で、気付けば上位に躍り出ていた「Small Worlds」があって、その「Small Worlds」をパカッと開けて箱庭の中を覗いたなら、リリックたちがマラソンをしている中で、気付けば上位に躍り出ていたのが、今回のリリックだったということになる。

さらにいえば、マック・ミラーというラッパーの存在自体も、また相似形だった。明確にどの瞬間からマック・ミラーを好きになったという記憶がないけれど、これまた長距離マラソンのように、気付けば、お気に入りのアーティストになっていた。

そんなわけだから、僕からすると、マック・ミラーというスルメなアーティストがいて、そのアーティストがつくったスルメな曲「Small Worlds」があって、その曲の中のスルメなリリックが、今回のリリックだということになる。そう聞くと、ずいぶんと顎に筋肉がつきそうなリリックだという気がしてくる。

さて、このリリックが僕にとってどんな立ち位置なのかということについては、十分に伝わったのではないだろうか。そうであれば、リリックの魅力の伝え方を大きく間違えるというリスクは減ったはずなので、重い腰をあげて、このリリックの魅力についても、少しばかり言葉にしてみるという作業に移りたい。

僕が思うに、このリリックの良さは絶妙で繊細なバランスにあるように思う。

つぶやくようなフロウで自分の境遇を弱々しく嘆いているように見えて、音楽で成功したお金持ちで5つ星のホテルにいるというヒップホップ特有のボーストも忘れてはいない。

この絶妙なバランスは、ほんの少しでもいじるとパラパラと崩れ落ちてしまいそうで、まるでトランプタワー(元大統領の方ではなく)のような危ういバランスで成立している。単なる嘆きであればヒップホップ好きには刺さらなかっただろう。それから、単なるボーストであれば、当時20代後半の僕にはこれまた刺さらなかっただろうし、そもそも数多くのラッパーたちのリリックの中に埋もれて終わりだっただろう。

ぎりぎりのバランスで立っている見事なトランプタワーがあったら崩れる前にみんなに見せたくなるのと同じで、ぎりぎりのバランスで成り立っているこのリリックは、ついついみんなに紹介したくなってしまう。

そして、幸いなことに、録音されて流通しているこのトランプタワーが崩れることはなく、いつでも何度でも再生ボタンを押して味わうことができる。